映画『私は憎まない』を観て

今日は、吉祥寺パルコの地下2階にある、アップリンク吉祥寺で映画『私は憎まない』を観てきました。

2009年に、イスラエル軍の戦車に自宅を砲撃され、娘さん3人と姪御さん1人を失った、パレスティナ出身で現在はカナダ在住の医師、イゼルディン・アブラエーシュ博士とご家族のことを追ったドキュメンタリー映画です。映画の最後には、この一年のイスラエルの攻撃でなくなった、ガザのたくさんの親類のみなさんの写真が掲げられていました。

映画では、医師の人生が映像とともに紹介されて行きます。自らの土地で幸せに暮らしていた両親がある日突然に土地も家もイスラエルに奪われて難民となったこと、難民キャンプでの貧しい少年時代に、教育こそがこの貧困から抜け出す道だと思い定め、医師を志し、並々ならぬ努力でその夢をかなえたこと、親戚みんなで住めるように5階建ての自宅を建てたこと。最愛の奥様を病気で亡くされたすぐあとに、その自宅が、イスラエルの戦車の砲撃をうけ、娘さん3人と姪御さん1人が犠牲となったこと。そのあとガザを離れて、カナダで職を得て、残された子供たち5人とともに移住し、苦労しつつ子どもたちを育てながら仕事をし、他方で娘さんたちの死についての謝罪をイスラエルに求めてイスラエルの法廷に提訴して戦うも最高裁で却下されたこと・・。それでも、不撓不屈で、相手を憎むのではなく、同じ、平等な人間としての共存と平和への希望を決して捨てていないこと・・。にもかかわらず、今も増えてゆく犠牲者・・。それでも彼は、決して「憎しみ」という感情を抱かずに、イスラエル人も、パレスチナ人も、同じ平等な人間であるという信念のもとに、生きることを選択しています。映画の中で、産婦人科医師である彼は、憎しみは毒であり、健康をそこなうものであると語っていました。どんな赤ちゃんも、憎しみを持って生まれてくるのではない、憎むことを教えられて、憎しみをいだくようになるのだ、健康でいたければ、憎しみをいだいていてはいけない、と。彼自身が、残された子供たちを育て上げるために、健康でいなければならないのだと。そして影像には、顔のみえない「イスラエル人」としてではなく、個人として、人間としての立派な見識をもったイスラエル人の方たちも映っていました。2009年の砲撃の時、イスラエルのテレビ局での生放送中にかかってきたアブエライシュ博士からの、今まさに自宅が砲撃されて娘さんたちが亡くなるその嘆きのなかで助けを求める電話を、放送中にもかかわらず無視せずにとりあけ、停戦につなげた当時のアナウンサーの方のインタビューや、2009年以前に、パレスチナで医療に従事していた彼を知り、イスラエルの病院でも働けるようにと尽力したイスラエル人の医師の方の回想など、イスラエルの方たちの中にも、ただただ人間同士としてパレスチナ人医師である彼と向き合ってきた方たちのいたことも、この映画は、伝えていました。こうした方たちがいたからこそ、『私は憎まない」という信念が、在りえたのに違いありません。

 

彼は、先月末に来日され、東京大空襲や長崎、広島での原爆による爆撃を経験した日本人だからこそ、今のガザの状況を思いやることができるのではないかとの期待を込めて、日本人に、即時停戦に向けて、声をあげてほしいと、語られたそうです。

その報告記事を読んで、現状に対するポジティブな怒りは必要だけれども、憎しみに憎しみでもって返してはいけない、イスラエル人も、パレスチナ人も、同じ人間として共存に向けて努力すべきだと、一貫して語っておられるのが、強く印象に残りました。そしてカナダへの移住で苦労されつつも、立派に成長された娘さんたち、息子さんたちの映像も、心に残りました。お父さんが愛する娘たちを殺されてもなお、憎しみにかられていないからこそ、お子さんたちも、このように立派に健やかに生長されたのだ、と強く感じました。

何をどう行動したら政治がうごくのか、無力な自分にはわからないのですが、即時の停戦、憎しみの連鎖の終わりを、心から祈ります。主よ、どうか、この地上に平和と正義をお与えください。平和の主よ、どうか、この地上に平和をお与えください。